炎熱/小話
【心密かに、恋深し】
たとえば、ただ真剣にパソコンに何かを打ち込んでいるときの表情とか、疲れたようなため息をついたときの仕草とか。
俺の相手をしてくれていないことは寂しいけれど、それを引いたって俺相手には見せてくれないような仕草を見れるという点で、炎山の仕事が終わるのを見ているのが好きだ。それは、待たせていることを毎回毎回謝ってくる炎山には伝わっていないみたいだけれども。
(まぁ、言ったことないし当然か)
「…おい、熱斗。」
「ん?」
「あまりじっと見るな。気になるだろ。」
ふいに流れるように動いていた手を止めて俺に一言。一時間ぶりくらいにこっちを見た炎山は苦笑いで、そんな顔も好きだな、とぼんやり思った。
「あー、気にすんなって。」
「気になるから言ってるんだ。」
そりゃそうだと心で苦笑いして、それでも待ってる間暇なんだからしょうがないだろ、とはやっぱり表には出さない。だって、なんだか恥ずかしい。暇なとき見るのが炎山なんて、炎山をそれだけ好きなんだって言ってるみたいだ。
「炎山なら気にしないなんて楽勝だろ。ほら、普段注目されても知らんぷりしてんじゃん。」
「赤の他人とおまえとで同じわけがないだろ。」
それもそうかって打った相槌が上辺を滑っていってしまった気がする。今までじっと見ていたのに逸らしてしまった視線は不自然ではなかっただろうか。
こんなに大げさに反応してしまって馬鹿だなぁって思う。今炎山の言った「他人」の場所には、たとえばメイルちゃんとかデカオとかだって当てはまるだろうに、なんだか特別だって言われたみたいで、嬉しいなんて感じるから。こんなんだからいつまでたっても炎山に単純なんて笑われるんだ。
本当は最近、呆れたみたいに、それでも優しく笑って言われるその言葉を嫌いじゃない。
やっぱりこれも秘密だけど。
だって、こういうことを言うと、炎山が、あの炎山が調子に乗るってことを知った。
それだって、口にでるのはいやだばかりだけど心のどこかに暖かいものを感じるのが本当。それだって、悔しいからやっぱり秘密にしたまんま。
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