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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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ヤドリギ

炎熱/クリスマス


 少し荒くなった息を呼吸一つで整える。急いで来たなんて思われたら、きっと炎山は自分の都合のいいように解釈してまた意地の悪いことを聞いてくるに決まってる。それがたとえ外れていないとはいえ、正直に言うにはまだまだ抵抗は残っている。
 コンコンと、いつものように扉を叩けば、これまたいつものように入室を促す声が聞こえてきた。もう一度息をゆっくりと吐いて、握る手に力を入れた。そうしてから部屋に入れば、炎山はもう帰る準備を始めていたのかコート姿で立っていた。ちょうどいいタイミングでこれて良かった。

「よ、炎山。仕事お疲れ様。」
「熱斗か。迎えに来なくともちゃんと行くぞ?」
「迎えに来たのもあるけど、それだけじゃないっていうか、」
「どうしたんだ?」

 はっきりと言えない俺に、炎山が不思議そうにしながら近づいて来る。炎山は、これからあるクリスマスパーティーのために俺が来たと思ってるみたいだ。べつにそのためじゃないとは言わない。けれど、それが本当の理由でもない。
 俺の返事を期待している炎山には悪いけれども、これを準備するのだって大分思い切ったというのに、それを素直に言える思い切りはまだない。けれど、ずっと黙っているわけにもいかない。遠回しにちょっとずつなら言える気がする。普段からいやに発揮される炎山の洞察力に期待しながらだけれど。

「今日はクリスマスだろ。」
「そうだな。」
「だから、」
「だから?」
「プレゼント。」

 プレゼント?と首を傾げる炎山に手に持っていた袋を押し付ける。

「これを渡すのに戸惑ってたのか?毎年渡してくれてるだろう、プレゼントは。」

 少し袋を持ち上げながら尋ねてくる。べつにそれに戸惑っていたわけじゃない。緩く首を横に振るのを見て、炎山は更に追求してくる。聞かれれば聞かれるほどに、だんだんどうしてこんなことを考えてしまったのか後悔してきた。だからといってもう後には引けなくて、袋の中を見るように告げる。いろんな豆知識を知ってる炎山のことだ。きっとあれのことも知ってるだろう。
 がさ、と袋を開ける音がしたから炎山をそっと見てみれば、やはりあれのことを知っていたのだろう。一瞬目を見開いて、それから意地悪そうに微笑んだ。

「どうしたんだ?宿木だろう。」

 意味を知ってて持ってきたのか、と続ける炎山には答えない。
 袋から取り出されたそれは、言えに飾ってあった物だ。見たことのなかった飾りに何だろうとママに聞いてみたのだ。そうしたら、宿木っていうのよ、という名称とともにその持っている意味も教えてもらった。なぜだろうか。本当にとっさに借りてもいいかを聞いていた。少しママは不思議そうにしていたけれど、ちゃんと持って帰ってくるのよ、という一言で貸し出してくれた。

「熱斗?どうしたいんだ?」

 にやにやという表現がぴったりな笑い方をしながら近づいてくる。徐々に顔が熱くなってくるのが分かって顔を伏せる。炎山からのリードを期待していたけれど、もしかしたらこうなるかもというのも分かっていた。きっとこうなってしまった炎山には、どうなるにしろ俺が恥ずかしい思いをするに決まってる。あーもうっ、っと心の中で叫んでから、まだにやにやしている炎山を睨む。それでも今の照れてる顔では何の迫力もないのだろう。炎山は一層笑みを深くしただけだ。
 軽く掲げられている宿木を炎山の手から奪い取り、そのまま炎山の手をとる。普段はコートが掛けられているフックに目をつけ、そちらに近づいていく。炎山を強引に引っ張ったためか少し焦った声が聞こえる。それに気を取られる余裕もなく、フックに宿木を掛けた。
 そのまま勢いに任せて炎山を振り返れば、さっきの笑みではなくちょっと間抜けな顔。それでもかっこいいままの顔に、口づけをする。少し乱暴になってしまったのは見逃してほしい。

「まさかおまえからしてくれるとは思わなかったな。」
「う、」

 さっきよりももっと顔が熱い。炎山を直視できなくて、視線を泳がせる。

「これもクリスマスプレゼントだな。」
「…そうか?」
「熱斗から、というのはまだほとんどないからな。」
「嬉しかった?」
「もちろんだ。」

 そう言って本当に嬉しそうに笑ってくれたから、最初に俺をからかったことは忘れてやろう。



【ヤドリギ】



 本当はもう少し恋人っぽい雰囲気でする予定だったんだけど、やっぱり俺にはまだ無理みたいだ。まだそういう雰囲気に弱い俺だけど、クリスマスっていう恋人達に持ってこいな日なら、少しは平気かなって思ったんだ。っていうのと、たぶん街に溢れてる人達に少しあてられたのかもしれない。ただ、本当に幸せそうだったから。
 俺には出せなかった甘い雰囲気だったけれど、今からそれを出す気まんまんの炎山にそれは任せて、近づいてくる顔にそっと目を閉じた。
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