炎熱/ぐだぐだ
まともに受けてしまったことによって息が詰まってしまったことに腹が立つ。頭の中が真っ白なのか詰まりすぎてるのか、何を言ったらいいのか分からないのもイライラする。顔が赤いであろうことも簡単に分かってしまうけれど簡単に受け入れたくはない。
けど、何が一番いやかって、そんな風に俺がなってしまってうことを全部知ってるくせに楽しそうに繰り返すあいつだ。
【意識率100%】
(なんで赤くなっちゃうんだよ)
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。でも、暴れたくなるこの感情の下に嬉しいっていうのがあるって知ってる。し、たぶん気づかれてる。でも、だから、炎山の思う壺にずぶずぶはまっていってるのに。
けれど、体温をすぐに下げられる方法を知ってるわけがないから、熱くなってしまった顔はどうしようもできない。悔し紛れに炎山を睨んでみたってどうもならないことなんてもう知ってはいるけれど、そうせずにはいられなくて、きっ、と睨めば、そんな俺に満足そうに更に笑みを深くした。
「どうした、」
いつまで経っても慣れないな、なんて楽しそうにくつくつ笑われる、けど、俺は一緒に笑える余裕なんか無くて、炎山の言うとおりいつまで経っても慣れられない。なんでなんだろう。
向き合わせてた視線をそっと逸らして、苦し紛れに「炎山だって何度も何度もさ。そろそろ飽きろよ。」って言ってみたけど、
「その兆しはないな。」
ってさ。いかにも楽しそうに言うから腹が立って、腕に抱いてたクッションを隣の奴にぶつけてみたけど軽く受け止められてしまって結局俺のムカムカが増しただけだ。
「その笑いやめろよ。なんかむかつく。」
「その、と言われても生憎今鏡は持ってないからどんなのかが分からないな。」
「分かんなくってもやめられるだろ。」
「楽しいときに笑うのは当然のことだろう。感情に正直なだけだ。」
「笑うのが悪いわけじゃなくってさ、」
「それともおまえの前でも表情を偽った方がいいのか。」
そんな風に言われてうん、なんて言えるわけも、まして思ってるわけもない。
それに別に笑うのがだめってわけで言ったわけではもちろん無かったのに。ただ、あんまり俺があたふたしてるのを楽しそうに見るものだからなんだか少し腹が立ったっていうだけで、いや、でもたとえどんな笑い方でも自然に出てきているものをやめろって言うのは、つまり表情を意図的に変えてくれっていうことで、そうしたら結局偽ってることになるのか。……じゃあ、やっぱりそんなこと言った俺が悪いのだろうか。
「……そのままでいいよ、もう。」
ちょっとむくれながら言えば、そうか、ってさっきまでの意地悪そうな笑い方と違う穏やかな笑みにさっきとは違う風にまた騒ぐ。炎山の表情だけでこんなに、振り回されて、それなのに炎山はいつだって炎山のペースで俺の側にいる。
なんかむかつく。何で俺ばっかりなんだよ。
こんなに俺が炎山に振り回されるのは俺が炎山をそれだけ好きだっていうことだ、たぶん。なら、全く俺に振り回されてくれないのはそんなに俺のことを好きじゃないから、とか。先に炎山が好きだって言ったくせに。
(まぁ、そんなこと実際に比べられるわけないけど、)
それでも、少しは俺みたいにあたふたすればいいのに。…炎山があたふたしているところなんて想像できないけれど。
「熱斗、」
「んー、」
「どうかしたのか。」
「なんで。」
「何か考え込んでいるだろう。」
「少しな。」
素直に何を考えているか素直に言わない俺に、炎山の眉が寄せられる。あーあ、と思わないこともないけど、だからって素直にあんなこと言えるわけない。
こちらを見る炎山の瞳はもうからかいも穏やかな感じも残してはいない。普通にしているときの炎山の瞳をじっと見るのは好きだ。すごく綺麗で、炎山だなぁって思える。やっぱり好きなんだなぁって感じる。
(あ、そっか。もしかして、)
炎山はそう思ったときに素直に言っているだけなのだろうか。意地悪ではなくて。
(べつに意地悪でなんて思ってないけど、)
だって目が意地悪だし。
じゃ、なくて、そういえばあまり俺は言ったことがないかもしれない。違う意味でなら言えるけれど、そういう意味でなんて恥ずかしくて簡単には言えなくて、炎山に促されて何回か言わされたことがあるくらいだ。
(よし、俺もちゃんと言ってみよう)
だって確かにすごく恥ずかしいけれど、言われることはすごく嬉しい。
うん、と心の中でうなずいて、俺を見る炎山の瞳を意志を込めてじっと見る。
「炎山、」
「何だ、熱斗。」
「好きだよ。」
「は、」
「だから、炎山が好きだなぁって、思ったから言ってみた。」
二回もきちんと炎山に伝えたはずなのに炎山はまた何を言ってるんだかよく分からない音を漏らしただけだった。特に赤くもならない。それに少しむっとなって、だから好きだなぁってば、って少し強めに言ったらやっと理解してくれたみたいで、ありがとう、と少し突っかかりながらも言ってくれた。そんなのめずらしいな、と思いながらもちゃんと伝わったみたいだから良かった。そう実感したらなんだか恥ずかしくなってきて、うつむくことで炎山から目をそらした。
「なんか、ちゃんと言ったことって少ない気がしたから、」
「……そうか。」
「だからなんかちゃんと言いたくてさ。」
「そうか。」
「いっつも炎山が言ってくれるのすんごく恥ずかしいけど嬉しいから言ってみた。」
「そうか。」
「炎山さっきからそうかしか言ってないぞ。」
「そうか。」
「だから、」
さっきからそうかしか言ってないってば。
不満に思いながらちらりと覗き見てみる。炎山は手で顔を覆いながら横を向いていた。顔を隠されていても隙間から見える肌は真っ赤で、さっきまでは俺の方を向いていた、炎山の顔が不自然なほど逸らされているのはきっと動揺しているせいだ。
そんな炎山を見るのはとても新鮮で、それになんだかほかほか嬉しい。
(炎山も俺に言う度こうだったのかな)
俺のことが好きなんだなって実感できる。それになんだか、
(炎山、かわいい)
なんて思うなんてすごく意外だ。いつもはなんだかかっこよくて大人っぽいと思っているのに。なのにかわいい、とかびっくりだ。
(炎山がよく言ってくるのも分かったかも)
こんな炎山が見られるならなんて少し癖になりそうな気がする。ってきっと炎山も俺に思ってるのかも。楽しそうにしてたし。それに、自分の気持ちを伝えられて、炎山もきっと嬉しいって思ってくれて、そんな炎山を見ておれも嬉しいって思えるなんて一石三鳥だ。
今度からは炎山から言われてどんなに恥ずかしくっても当たらないようにしよう。うん。できれば。
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