炎熱/クリスマス小説
【目には見えないけれども大切な】
ばん、と些か乱暴にドアを開いた人物はわざわざ見ずとも分かった。だから、そこにいたこと自体には問題は無かったのだが、そこに立つ人物のそれは確実に問題だった。
「メリークリスマス!」
その格好は何だ。いや、サンタクロースだろうな。それは知っている。知っている、が、問題はおまえがいったいその格好をどこからしてきたのか、ということだ。まさか日が日だから許されるだろうとかいって如何にも普通にその格好で闊歩してきたのではあるまいな。そんな、危ない。いやそうじゃないだろう。なんてもったいない。ああ、それも違う。
「おい、炎山?」
「あ、ああ。何だ。」
変な方へと暴走していた思考回路は原因本人によって止められた。とっさに変なことを言いそうなのを止めたこの努力を自分で褒めたい。自分以外は褒めてくれないだろうから。
「何だ、じゃないだろ。なんか言うこと無いのかよ。」
「似合ってるぞ?」
「疑問形かよ。ってそうじゃなくて!」
全く、と怒りつつ呆れるという無駄に器用なことをやってのけながら、こちらに近づいてくる。どすどすと、という表現がぴったりだ。
「だから!メリークリスマス!ってば。」
どん、と勢いづきながら机に詰め寄られる。もう一度繰り返された言葉に、そういえばさっきは言っていなかったな、と思い出した。熱斗の格好に気を取られていて。
「メリークリスマス、熱斗。」
笑みながら言ってやれば、熱斗はよしとばかりに満足そうに頷く。
「もう仕事は終わりか?」
「ああ。今日は皆仕事が速かったからな。」
「そっか。あ、そうだ。」
ごそごそと肩に担いでいた袋を漁り、取り出されたのはやはりというかプレゼント。
「ここで渡すのか?」
「え、だってせっかくこの格好に着替えたのに今渡さなかったらもったいないじゃん。」
ああ、そうか。ここに着いてから着替えたんだな。良かった。一応の良識は弁えていたみたいだ。もしかしたらロックマンに止められたのかもしれないが。
「炎山がくれるのはうちに着いてからでも良いぜ、別に。」
「いや、熱斗が今くれるなら俺も今渡そう。」
「あれ、今持ってるのか?会社に置きっぱなしにしてたのか?」
「そんなわけあるか。まっすぐおまえの家に行こうと思ってたから持ってきていたんだ。」
机の横、紙袋の中からひとつの袋を取り出す。他に入っているのは光博士やはる香さんへの分だ。
「ほら、熱斗。プレゼントだ。」
「ありがと。ほい、炎山。」
「ありがとう、熱斗。」
プレゼントを受け取った熱斗の顔が綻んでいる。俺もきっと似たような表情になっているのだろう。
「あれ、炎山誰かからプレゼントもらったのか?」
「何でだ?」
「だって他にもプレゼントあるじゃん。」
「ああ、それか。はる香さんと光博士の分だ。普段お世話になってるからな。そのお礼に。」
「おまえ一応子どもだよな……。」
「身体年齢で言えば恐らく。」
「……あっそう。」
まぁ、確かにそこら辺の子どものすることではないだろうから、その何ともいえない視線は甘受しておこう。たとえ年齢的には子どもでももう働いているんだしな。この機会に普段お世話になっているお礼はしておかなければ。
「でもそっか。パパ達の分か。」
「どうかしたのか?」
「あー、うん。やっぱりプレゼント、ここで開けるのは止めとこうかな。」
「そうか?」
「みんなで一斉に開けた方が楽しい気がするし。うん、そうする。」
うん、と頷いて満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃあ一旦お互いのプレゼント戻しておくか?」
「それはいいや。炎山にあげたのはもう炎山のだし。」
「そうか。」
「……それに炎山からもらったプレゼント自分で持ってたいし。」
えへへとはにかみながら、俺からのプレゼントをぎゅっと抱きしめる。そんな熱斗に俺が直撃を受けたとは自分が照れて精一杯の熱斗はまるで気づかなく、「俺着替えてくるな」とぱたぱたと部屋から出ていく。
持て余した熱をぶつける相手もいなく、遠慮なく吐く大きなため息で逃がす。それは嫌なものなんかでは当然無く、熱斗に会うまで考えられなかった、大切なもの。
視線を惹いたそれは、俺に残された熱斗の欠片。なぞればほのかに暖かい、幸せの感触。
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