炎熱/小話
気づいたのは、偶然だった。
眠りから覚めようとしたときに、優しく頬を撫でる手に気づいた。その手はひどく優しく、壊れものに触るみたいにそっと、そっと、俺を撫でていく。
温かな手は、俺をもう一度眠りに落とそうとその威力を発揮したけれど。
「熱斗、」
小さく、俺を呼ぶ声に眠気は吹き飛んでしまった。
それほどに、心を揺さぶるほどの声で、
「熱斗、」
何でそんな風に切なそうに俺を呼ぶの。
何でこんな風に恐る恐る俺に触るの。
「熱斗、」
いつもみたいに、もっとちゃんと呼べよ。
そうじゃなきゃ、どうしたらいいのか分からなくなる。
せめて。
せめて、
起きている俺をその声で呼んで。
そうすれば、俺は、どうしたんだって聞けるのに。
「ねっと、」
悲しげに、俺を呼ぶ炎山に、なんでか泣きそうになった。
(えんざん、)
【消えゆく言葉】
(なぁ、俺だって)(おまえを呼んでるのに)
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