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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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微睡みワルツ

炎熱小説/ほぼ熱斗くん独白

【微睡みワルツ】




「おーい、炎山?来たぞー。」

 こんこんと扉を叩いた後数秒。いつも掛かるはずの声がないことにあれ、と首を傾げながらも扉をそろりと開ける。
 この時間はそもそも炎山が指定したんだし、もし誰かと会っている最中だったなら受付のおねえさんが何か言ってくれたはずだし、と心の中で言い訳しながら中を覗けば炎山がソファーに座っているだけで他には誰もいない。そのことにちょっと安心してため息をついて、それからまたあれ、と思う。

(炎山、俺が来たことに気づいてない?)

 もしかしてもしかするかも、となるべく音をたてないようにしながら炎山へと近づけば、静かな呼吸音が聞こえてきた。そこでなんとなく疑いは確信に近づいてきたけれど、一応軽く俯いている炎山の顔をのぞき込んでみる。そうすれば案の定目を閉じた顔が目に入ってきて。やっぱりな、と思いながら炎山の隣に座った。

「寝てるみたいだな。」
『そうみたいだね。』

 ぼそり独り言みたいに小さく落とした声に、ロックマンは反応してくれた。隣の炎山のために自然とお互い小さな声で喋ってる。
 目の前のテーブルには飲みかけのコーヒー。俺を待ってる間に寝ちゃったんだろうな、たぶん。カップの隣には電源の落ちた赤いPET。ブルースもきっとお休み中なんだろう。

『どうする?熱斗くん。』
「どうしよっか。」

 すーすー穏やかに寝ている炎山を見ながら聞こえた声に空返事すれば、それがあからさまだったのだろう。ロックマンが熱斗くんったら、とこぼすのが何となく遠くから聞こえた。
 視界に広がる炎山の顔。普段、こんなに近くで炎山をじっと見ることはあまりない。普通に炎山と話していてもときどきふと思うんだけど、やっぱり炎山は綺麗だ。そのせいか知らないけれど、なんだかずっと見てるとこっちが照れてしまう。ただ、ちょっと残念だなって思うのは瞼で覆われてしまっている瞳を見れないことだ。炎山の瞳は綺麗な蒼色で、たまにもっと近くから覗き込んでみたくなる。そんなこと、恥ずかしくて出来るわけなんかないけど。
 あーあ、と心で何となく嘆いて、何かに誘われるままにそっと頬に触れたけど炎山は全く反応しない。

(すっごく疲れてるだよな、炎山)

 だったら俺を呼んだりしないできちんと寝ればいいのに、とか。
 思わないわけでもないけど言えるわけもない。
 炎山が、俺と会う時間を作るために頑張ってくれてるってちゃんと知ってる。俺は、それに甘えてばっかりいる。

(ごめんな、炎山。ありがとう)

 俺だってやっぱり炎山と会いたいって思うから。
 それに、俺といると安まるんだって言ってくれた炎山は嘘をついてはいなかったと思う。俺だって炎山といると嬉しいし、なんだか心がほんわかするんだ。それがすごく心地いい。たまにすごく心臓がうるさくなったりすることもあるけど、それだって悪くないものばかりだから。そういう時間を過ごすことを安まるって言うんだ、きっと。
 やっぱり、もっとちゃんと休んで欲しいっていうのも本当だけど。

 ソファーに投げ出された炎山の手をそっと握ってみる。握った手は温かくて、伝わってくる温度に会うのは久しぶりなんだなってこんなことからも思ってしまって、少し恥ずかしかったけどもう一度しっかり手を握りしめた。
 恥ずかしさは全然なくならないんだけど、前は緊張が大部分を占めていたこういう接触が、伝わる熱が、炎山のだっていうだけですごく気持ちがいいんだってことがいつからか分かってきた。それは本当にいつの間にからかで、いつだったか抱きしめられてるときに、ああ、炎山だなって無意識にあいつにすり寄ってしまって、あれって思ったんだ。最初にそうされたときには、伝わる熱にどうしようもなく困惑していたはずなのに。
 こんな、「恋人」としての接触は、どうしようもなく、いろいろ大変だったんだ。最初は。
 炎山が友達、とか仲間、とかライバルとか。そういうものだったときには普通にしてたことがいろいろ難しくなったんだ。抱きつくのだって、平気だったのに。
 違くなったのはたぶん、炎山が変わって、それから俺も変わったからだ。
 俺を見て優しく笑ったり、耳元で囁いてみたり。俺がどきどきするようなことをすることが増えて、炎山はそれにわたわたする俺を意地悪そうに笑って見てたり、おかしそうに笑ってたり。なんだかいっぱい笑うようになった炎山は、そんなとき一等綺麗だから、俺はなんだかやっぱりどきどきして。いつの間にかそういう炎山は俺の心の中の大事な宝箱にしまわれることになっていた。それはときどきちょっとしたタイミングで開いては、やっぱり俺をどきどきさせた。
 そうしたら今度は、例えば仕事をしてるときの真剣な顔とか、そんな今までたくさん見てきたような表情にも目が離せなくなっていて、そんな自分に気がついてちょっとあたふたした。
 そこからはあっという間で、今までは俺からしていたようなこともすごく恥ずかしくて出来なくなっていた。手を繋ぐ、とか抱きつく、とか。それは代わりに炎山からするようになっていて、そんなときは本当にどうしたらいいのかさっぱりだった。頭はぐるぐる混乱して体だってものすごく緊張してたけど、嫌だと思ったことだけは一度だってなかった。

 握りしめた手を指でそっと撫でてやれば自然と小さく笑いがでた。そしたら一緒に、ふあぁ、と欠伸が一つ。快適な空調と伝わる温度のせいか俺まで眠くなってきている。

(あ、そうか)

 炎山が疲れていて、それでも会いたいのだから。

「ロックマン、」
『なに?熱斗くん。』
「ママに今日は夕飯いらないって伝えてきて。」
『え、どういうこと?』

 最後に満足の笑みを浮かべて炎山から視線を逸らせば、どういうこと、とまくし立てるロックマンと目が合う。

「炎山と一緒に寝ようと思ってさ。けど、せっかくなのに寝てるだけなんてなんか嫌だし。だから夕飯を一緒に食べようと思って。」
『そういうこと。炎山、今日は熱斗くんに会う前ので仕事終わりだって言ってたしね。』
「そういうこと。あ、ロックマンもママに伝えたら休んでていいぜ。」
『分かった。じゃあ、いってくるね。』

 そう言ってそのまま行ったロックマンを目に納めてから、腕が炎山に触れるようになんとなく横にずれる。そうして増えた一緒の面積が嬉しい。
 起こさなかったことに炎山は少し拗ねるのかなとか少し思うけど。こうやって一緒に寝ることだって案外嬉しいし楽しいことだと思うんだ。現に、俺は目を閉じてても感じられるおまえの体温が嬉しいしさ。炎山もそう思ってくれたらいい。
 それでもし、炎山も嬉しいし楽しいって言ってくれたら、今度からおまえの貴重な休みには昼寝の時間を作ろうかな。あ、もちろん寝るときはきちんとベッドでな。
 こんな風に考えたことは後でちゃんと話すからさ。
 今は俺も一緒に。
 おやすみ、炎山。

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