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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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知的欲求もしくは独占欲求

何を書きたかったのかいまいち伝わらないもの。
炎熱小説。



  仕事をひと段落終え、ため息一つとともに体の力が抜けていくのが分かる。パソコンに向かいすぎていたせいか、目は異様に疲れを訴え、体も固くなっていて痛い。それもそうだ。この仕事を夜から始めて、今はもう昼だ。

「ブルース、今日はもう終わりだ。おまえもゆっくりしていろ。」
『はい、炎山様。それでは何かありましたらお呼びください。』

  言い終わるのとほぼ同時にPETとパソコンの電源が落ちる。
 それを見届けてからゆっくりと背もたれに体を預け瞼を閉じる。視界に広がる闇色にそのまま意識を沈めようとして、瞬間浮かんだ顔に失敗した。
 こんな不意の瞬間にさえ入り込んでくる存在に、自分の想いにため息をつきたくなったが、実際は浅く息を吐きだして終わる。
 思い出してしまったものにより吹き飛んでしまった眠気を呼び戻すことは諦めた。どうせ今日はもう帰るだけだ。家でゆっくり休んだ方がいいだろう。
 そこまで考えてやっと、もう日差しが明るく照っていて当然の時間なのに、人工的な光しかこの部屋には無いこと気になった。
 少しは気分が爽やかになるだろうか、と閉め切っていたブラインドを一気に上げていく。途端入り込んできた光は、明るいこの部屋より明るく、目を焼く。
 ようやく慣れてきた光に、細めていた目を開いていく。
 暖かいと感じられる光を浴びながらも、特に感慨もなく忙しく地上を歩く人々を目で追う。そして、ふと目に付いた光景が、声を呼び起こした。
 その声がすぐ側で聞こえたように錯覚して、この場にいない存在を、しばらく会えていない存在を、自分が存外求めているのだと、心が訴えているのだということに気がついた。
 目に付いたのは、ビルばかりが建ち並ぶ、人工的な風景。それでもそこから見えた、緑に混じって鮮やかな色を主張し始めている、数本の木々。

(熱斗、)

 そう、熱斗が言っていたのだ。もう秋だ、と。木はだんだん紅葉してきていて、赤蜻蛉を見たと。空もなんだか夏と違って秋っぽいんだぜ、と楽しそうに、笑いながら。
 熱斗は、日々に埋もれて俺なら流して見過ごす小さな変化を、拾い上げて楽しそうにひとつひとつ大切そうに見つめる。そうして報告するみたいに毎回毎回俺に告げていく。本当に、小さいことまで。
 そんな風だから、いつも自分は誤解するんだ。お前のすべてを知っているかのように。
 そして、自分がそう在りたいと思っていることを自覚する。そんなの永久に無理だと理解しているにも関わらず。
 馬鹿だと自嘲し、思考が沈んでいきそうというところで遠慮の感じられない強めのノック音が聞こえ、現実に急激に引き戻される。
 そして、それがきっと会いたいと思っていた人物によるものだと妙な自信で以て確信して、やはりその人物だったことに顔がひどく緩んでいたことに気がついたのは、挨拶の次の熱斗の言葉が、「何か良いことでもあったのか?」だったからだ。


「それで、熱斗。どうかしたのか?」
「なんだよ。俺が用もなく炎山に会いに来たらいけないのかよ。」

 えらく不服そうに唇を尖らせて、不満だということを隠そうともしない瞳に睨まれる。
 俺はといえば、用無く会いに来てくれたということに、なんだかいつも以上に嬉しく感じていた。別段これが始めてなわけでもないのに。ただ、嬉しいという感情がいつもより疲れた頭と体を固くさせた。

「今日、炎山は昼で終わりだって受付のお姉さんが教えてくれてさ。だから炎山が家に帰っちゃう前に会おうと思って。どうせずーっと働き通しだったんだろうから帰ったら休むんだろ?」

 そのつもりだが、と覇気無く返せば、お疲れ、と柔らかく優しく微笑まれる。
 その笑顔をきっかけに沸き上がった衝動のままに熱斗の腕を引き、自分の腕の中に彼の体を閉じこめる。そうしたことで、熱斗を求めていた気持ちが満たされていくのを感じた。
 熱斗は、最初は驚きからか少し体を緊張させていたが、ほんの数秒後にはすっと力を抜いたのが分かった。
 更には、えへへと小さく笑い、胸に顔を寄せてきたりなんかするから、嬉しくなって抱きしめる腕に力を入れた。

「あんまり長いこと会えてないとさ、俺だって寂しいって思うよ。」
「……そうか。」

 うん、と恥ずかしそうに顔を伏せながら、それでもはっきりと頷く。
 言外に炎山だけじゃないんだと言われた気がして胸が締まった。
 熱斗がそういったことを言葉に、態度に出すことはあまりなくて。いつだって会えない時間に耐えきれなくなるのは自分の方だった。そして、今回はそう言わせてしまうほどに長い間会っていなかったかともう一度実感する。あまりにも忙しくて時間感覚が狂っていたのだろうか。
 それでも、そう思わせたほど長い間会う時間を作れなかったことへの申し訳なさより、そう言ってくれたことへの感動の方が遥かに勝った。
 単純に、素直に、心底、嬉しくてしょうがないんだ。

「それじゃあ、俺もう帰るよ。」

 抱き合った体勢のまま、何分もしくは何十分か経った後に、そっと体を離すように手が胸に当てられる。
 俺としては今日の午後の休むという予定を潰してこのまま熱斗と一緒にいたいのだが、実際そんなことを口にすれば熱斗が怒るのは目に見えてるし、悲しむ。
 それが理解できるほどには、俺は熱斗を知っている。

「もうすぐ休みがある。そのときには、必ず。」
「嬉しいけど無理はするなよ。」

 苦笑いを浮かべる熱斗の頬にそっと手を伸ばして添える。
 そして、今日はこれで終いとそっと口づけをすれば、ゆっくり瞳を閉じて応えてくれる。
 数秒の心地よい沈黙のあと、ゆっくり唇を離せば、熱斗はぱっと離れ、一瞬照れたように視線を泳がせる。それでもその後には、しっかりと目を合わせ、はにかみながら笑う。俺は、俺しか知らない、俺にしかさせることのできない、この顔がとても好きだ。




【知的欲求もしくは独占欲求】




 口づけをした後の、照れた顔は熱斗本人には分からないだろう。もちろん、その他大勢にも。
 それを、俺は知っている。
 今はまだ、この事実だけで満足だ。

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