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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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眠り覚める日

炎熱/新年小説
    


 こんこん、とタイピングの音しかしていなかった部屋に軽い音が響く。誰のとはほぼ分かっていながらも、はい、と冷めた声で返せば焦れったかったのだろう、入るからな、と些か乱暴な声の返事が聞こえてきた。その声にやはり思った通りの人物だったと確信して、声と間を置かずして入ってきた熱斗に声をかけた。一言おはよう、と。


【眠り覚める日】


「おはよう、炎山。てか、おまえもう働いてるのな。」
「まあな。」
「連絡したときに会社にいるって言ってたからまさかとは思ってたけどさ。って、そうだ。明けましておめでとう、炎山。」
「おめでとう。ってこの挨拶はもうしただろう。それこそ年が明けたときに。」

 そうなのだ。新しい年だとしみじみ感じていたところにいきなり新年の挨拶を寄越したのだった。普通夜中だからとメールにするであろうところこいつは電話で寄越したのだった。それを新年の挨拶の次の言葉にすれば、「どうせ仕事してたんだろ。」と切り返された。そしてその通りだった俺は他の人にはするんじゃないぞ、と彼は絶対にしないであろうことを口にするに終わってしまった。仕方がない。俺だって新年早々に熱斗の顔が見れて、熱斗の声が聞けて嬉しかったのだから。加えて言えば、図星を指されて俺を理解してくれてるのかと見当違いな錯覚を起こして喜んだことは熱斗には秘密だ。

「だってさ、あのときは電話越しだったじゃん。んで、今は生身炎山。だから何となくもう一回言いたくなった、みたいな。」
「……そうか。それで?」
「それでって?」
「おまえが来る前の電話でも言ったとは思うが事実上休暇でも今は一応仕事中だ。」
「…邪魔だって?」
「そうは言わない。もし邪魔ならそもそもここに来るのを許さないさ。」

 険しい視線を投げかけてくる熱斗に間髪入れず否定すれば、ならいいけど、と小さく吐き出す言葉が聞こえた。

「あーあ。これじゃあやっぱり夢の通りになりそうだよ、もう。」
「なんだ?夢って。」

 明らかな落胆を示す熱斗が気になるがその内容も気になった。なんだ、夢って。というより、どんな夢だったんだ?

「俺、今日初夢みたんだ。」
「それで?それがどうしたんだ?」
「夢の中の炎山は、ひたすら仕事してて、もう全然全く一緒にいてくれないどころか、忙しいからって会話もしてくれなくて、」

 いくら夢だからってそれは酷すぎではないだろうか。会話も無しとは。
 夢はその人の深層心理の現れと言われたりしている。ということは熱斗から見た俺はそこまで仕事人間なのだろうか。なんというか、いろいろと複雑だ。

「それで俺、前に初夢は本当になるって聞いたことがあった気がしたからさ。」
「そんなの迷信だろう。」
「俺もさそんなに信じてるわけじゃないけど、」

 もう仕事してる炎山見たらあながち外れてるわけでもない気がしてさ、と軽く笑いながらうそぶくのをじっとただ見つめる。
 熱斗はほの初夢に落胆したのだろうか。それでここにすぐに来てくれたのだろうか。
 笑いが止まって気まずく逸らされた瞳に、冗談に紛れて小さく不安が揺れているのを俺の視覚が拾う。熱斗が拾ってきた不安を、俺にしか解けない不安を、解くことが愉悦だと言ってしまったら熱斗はやはり怒るだろうか。

「初夢が本当になるっていうのは嘘だな。」
「俺だって別にそんなに信じてるわけじゃ、」
「俺は、」
「え?」
「俺がこうしてこんな日にまで仕事をしてるのはなんでだか分かっているのか?」
「は?」

 熱斗の言葉を遮って疑問を投げかけてやれば訝しげな表情を向けられた。

「こうして前倒しで少しずつ仕事を処理していけば暇な日が増えるだろう?一日丸々休める日が出来るかもしれない。」

 言ってやってしまえば、数秒瞠目した後に浮かんだのは膨れながらも嬉しそうな顔。

「でも話せる時間が減るんだろ。今日みたく。」
「今だって話はしているだろう、ちゃんと。それにそもそも今日は何の約束もなかったから仕事をしているんだ。」

 こんなにおまえのことを考えてやっているのにおまえの見た夢が本当になると思うのか?

 はっきりきっぱり自信満々に断言してやれば、少しの間を置いた後に参りましたと一言。けれどそう言う顔は悔しそうでも悲しそうでもなくて、満足そうだ。

「でも、まあ、」
「今度はなんだよ。」
「予想外に、しかも急に、大量の仕事が入ってきたら、熱斗の初夢の通りになってもそれは俺の責任じゃないな。」
「え!なんだよ、それ。ここまで引っ張ってきてそれはないだろー。」

 なんだか誤魔化して後で熱斗にへこまれてもなんだから、ふと掠めた可能性を素直に告げれば今へこまれた。けれどいきなり現実で叩きつけられるよりはましだったろうというのは少し自分に甘いのだろうか。それでも、愚痴こぼすその顔に不安はもう見えないからこれはこれでよかったような気がする。

「まぁ、俺だっておまえといたいんだ。最大限の努力はするさ。」

 事も無げに言い放つと照れ笑い。
 こうしていちいち俺の言動にいろいろと揺れ動いてる。それを認識する度に心がじんわり温かく。
 そのすべてを俺はいちいち脳に焼き付ける。それが今年の抱負かなとぼんやり思った。

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