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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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未来予想図

炎熱/夏の終わり

 

【未来予想図】


 本社ビルの近くの公園。そのベンチに光熱斗と伊集院炎山は座っていた。オフィスビルの合間にあるこの公園には、昼時には会社員たちでにぎわっているが、4時過ぎといった中途半端な時間ともなると人はまばらで、静かな中で下らないことを彼らは喋っていた。いつも忙しいはずの炎山もどうにか時間に融通をつけたのか、特に時間に追われた様子を見せることもなく、缶コーヒーを口にしている。熱斗の手にはアイスキャンディーが握られており、真夏の頃よりは気温の下がった今日では、そんなに焦って食べることもなく済んでいた。
 そんな中、どこか涼しく吹いた風を受けながら熱斗はため息をひとつ落とした。いつも元気が目立つ彼のため息に、隣に座っていた炎山は熱斗を伺いみたが、分かったのは彼がどことなく元気がなさそうだ、ということのみで、当然外見からはその理由を知ることはできなかった。先ほどからの話題では元気に話していたから、彼の中でどこかに思考が飛んだのだろう。何が原因でそうなったのかは分からないが。とにかく、分からないことを考えていてもしようがないので、炎山はその理由を聞いてみた。

「どうしたんだ?熱斗。ため息をついて。」

 訊ねれば、ため息は無意識の産物だったのか、え、と一瞬不思議そうにしてはいたがすぐに思い当たったのか、ばつの悪そうな表情を浮かべながら曖昧に笑った。

「あ、うん。夏も終わっちゃたなと思って。」
「なんだ、寂しいのか?」
「寂しいって言うか、」

 どことなく歯切れの悪い熱斗に内心首をかしげる。もう夏休みも終わってしまうから学校が始まってしまうのが憂鬱なのだろうか。けれど、彼は学校も健全に楽しんで行っているようなので、ここまで気落ちするようでもない気がする。そこで、一つ思い当たることが浮かんだ。

「もしかして、宿題が終わらなかったんじゃないか?」

 と、彼の性格を考えても当てはまるであろう、夏休みの終わりに宿題が終わっていなくて焦る子供の像が浮かんできた。これだろう、と当たりをつけたこれに、けれども熱斗は違う!と最後の一口を口に納めながら大きな声で否定してきた。その前に言葉に詰まったような様子を見せていたから、まだ完全には終わっていないことが分かってしまった。早く終わらせないと困るのはおまえだぞ、と小言のような言葉が出てきてしまった。

「全部宿題が終わったかっていうとまだ終わってないのもあるけど、ため息は違う理由!」
「だったら、理由は何なんだ?」

 もう一度聞いても、やはり熱斗は口をもごもごとさせて言いづらそうにするだけだ。なので、触れてはいけないことだったのだろう、とそれ以上の追求を諦める。
 なんとなく感じた寂しさはきっと、聞き出せなかったことに対する悔しさの類似品だ。
 
 言い聞かせながら、なんとなく居心地の悪さを感じてしまう。手持ちぶさたになってしまい、残り少なくなっていたコーヒーを一気に流し込む。その苦みと、飲み込んだ後の一息に心が落ち着いた。やはり一服というものには効能があるのだな、ということに納得する。いつも仕事の合間に飲んではいるがここまで落ち着きを感じたことは無かった気もする。などと、考えていると熱斗が、ぽつりと、夏に、と溢すのが聞こえてきた。自分が下らないことを考えている間にも熱斗は悩んでいたのだろうか。と、思うと悪かったように感じたが、思っていてもだから特にどうすることができるわけでもなく、ただ彼の言葉の続きを待った。

「もっと遊んでみたかったんだ、炎山と。」

 は?という言葉は辛うじて飲み込むことができた。熱斗からの思いがけない言葉に俺が固まってしまっている間にも、俯いてしまってこちらを見てはいない彼に、俺の様子が分かるはずもなく、ただ言葉を続けていった。

「せっかく仲良くなれたからもっと海に行ったりとか花火とか炎山としてみたかったんだけど、」

 結局全然できなかった。と締めくくり、最後に大きくため息をついた熱斗はそのまま黙ってしまった。俺はと言えば、熱斗とは違う理由で何も言うことができないままに固まったままだった。
 熱斗が海に行きたいだとか花火をしたいだとかなどは聞いたことが無く、そんなことを思っていた熱斗とそれにそこまで落胆している彼に驚きだった。光熱斗という人物は何でも素直に訊ねてくるものだと思っていたのだが、今回訊ねられなかったのはなぜなのだろうか。思案を巡らせようと頭を動かそうとしたけれども、そうするまでもなく答えは浮かんできた。
 あれは、夏休みに入ってすぐの頃だっただろうか。8月末までに空いている日はないか、と彼から連絡が入っていたのだ。一応空いている日がないこともなかったが、それは確実なものとは言い難く、彼に確約をして破ってしまうことを考えると、この日、と告げるのは憚られた。加えて、その理由がメールには書かれていなかったから、さほど重要ではないものかと勝手に判断して、分からない、とだけ返信をした。それに対しての彼からの返答は分かったとだけではあったが、今、熱斗が言ったようなことをするためのメールだったのなら、俺からの返信を受けて駄目だと思った熱斗はそれからはメールをするのをためらったのだろうか。以前、おまえと違って忙しい、と皮肉ったことを、真面目に受けたのだろうか。
 結果、あのときの熱斗からのメールは俺にとって取るに足らないと言ってしまえばそうなのかもしれない。
 けれども、落ち込んでる熱斗を見ているとなぜか罪悪感は湧いてくるうえに、熱斗と所謂夏の遊びをしてみてもよかった、と思っている自分がいて愕然とする。
 今までそんなことをしたことはほぼ無いと言っていいほどに無い。そして、必要性も感じていなかった。なのになぜ、今更。

 本当は、きっと。
 彼に引っ張られているのだと、

「熱斗、」
「何だよ?」
「来年、やればいいだろう。」
「へ?」
「来年は数日確実にスケジュールを空けておいてやる。」
「本当にっ!?」

 やった!とさっきとは打って変わって喜色満面に今から楽しみだな、と肩をたたいてくる。それを痛がるふりをして振り払うが、熱斗は特に気にした様子を見せることもなく、楽しみ、ともらしている。その笑顔をまだ真正面から受け止めることができなくて、あくまでも自然を装って視線をそらした。

 本当ならば海に行くことや花火をしたりとか、そんなことを彼と当然のようにしてくれる友人が彼にはたくさんいるのだろう。それでも俺としたいという熱斗の言葉がうまく処理しがたい感覚を湧き上がらせる。
 けれども、そう感じさせられることも、悪くないと最近は思える。
 徐々に変わり始める。
 約束の来年の夏には、熱斗の笑顔に俺はどう反応しているのだろうか。
 


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