一番最初の小説なのに少しうすぐらいという。
炎→熱的なものです。
欲しいものが、ある。
けれど、
失う怖さや、堕ちる怖さを考えただけで、
この手をこれ以上伸ばせないまま。
【太陽とイカロス】
「えーんざん。」
いつもの子犬のような人懐っこい笑みを浮かべ、やはりいつものようにアポもなにも無しに訪れた熱斗。
彼のその後者の行動に咎める言葉をかけなくなったのは、いつからだっただろうか。
「熱斗。今日は相手をしてやれる暇は無いぞ。」
悪いな、と続ければ、全く気にする様子がない上、いたずらっこのような笑みを浮かべ軽やかに机に近づいてくる。
「大丈夫だって。今日は用が済んだらすぐに帰るからさ。」
「用?」
「そうそう。」
ごそごそと鞄を探ったかと思うと、びしっと突きつけられた、もの。
「……弁当?」
「そ、炎山に。」
何故、の一言が言い出せないままに固まっているとさらにずずいとこちらに弁当が押し出される。
「ほら、だってさ。昨日ネット警察で会ったときに顔色があんまり良くなく見えて。んで、そういえば前に炎山が忙しいときには食事は軽いものしか食べてない、みたいなこと言ってたなぁと思って。」
やっぱり体調管理の基本は栄養だろ!
そう締めくくった熱斗を半ば呆然と見つめる。確かに最近きちんとしたものを食べていないのは本当だ。まさか、それが外に出ているとは思わなかったが。
珍しくぐるぐる回る思考を必死に落ち着かせ、とりあえず気になったことを聞いてみた。
「これは、誰が?」
「俺なわけないだろー。決まってんじゃん。ママだよ、ママ。」
「……わざわざ作ってもらったのか?」
「んー、今日学校でお弁当が必要でさ。ママに炎山の分も頼んだんだ。とにかく!体壊したら大変だからな。ちゃんと食べろよ?」
「……ああ。ありがたく受け取っておく。はる香さんにありがとうございます、と伝えてくれ。」
「おう!それじゃあ、俺はもう帰るな。用はこれだけだし。」
またな、という言葉一つを残してあっという間に熱斗は扉の前まで行っていた。
そこでやっとまだ言ってなかった言葉を思い出して、声を出す。
「熱斗!」
「ん?」
「ありがとう。」
言えば、にっこり満面の笑みを残して扉をくぐる。と、思ったら出かけた体で顔だけ戻して、
「睡眠もちゃんと取るんだぞ!」
と、忠告を落として今度こそ扉が閉じられた。
まだ、他の人がいたという空気を消せないでいる部屋を感じて、息を吐く。
熱斗がいなくなると、お前の雰囲気は感じられるのに気温だけは元より下がった気がするんだ、と正直に告げたら、熱斗はどう思うだろうか。
こうやって冷たく感じる部屋はきっと、暖かな存在を失ったからだと。
そう考え始めたのは、最近から。
同時に、それが欲しいとも。
常にその温度を感じられる、お前の傍らが欲しい。
けれど告げられないのは、告げたことによりこの距離さえも失われることと、近づきすぎたが故に堕ちてしまった誰かのようになることが、欲しいと感じるのと同じくらいに切に怖いからだ。
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