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あとかた

二次創作の小説と日常の戯言

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ちょこれいと革命

炎熱/バレンタイン



『まずは板チョコを細かく刻む、だよ、熱斗くん。』
「よし、やるぞ!」
「いや、刻むのは俺がやろう。」
「え、なんでだよ。」
「おまえに包丁を持たせると危なさそうだ。」
「えー。」
「ブルース、次にしておけそうなことはないか?」
『生クリームを沸騰直前まで暖めておくこと、というものがあります。』
「それにしておけ、熱斗。」
「別にいいけどさ。てか、鍋に生クリーム入れて見てるだけ?」
「まぁ、ほぼ。ただ、沸騰する前に火を弱めろよ。」
「分かってるよ。」
「頼む。」
「………………………沸騰直前ってどうやったら分かるんだ?」



『刻んだチョコを生クリームの中に入れて溶かして下さい、炎山様。』
「わかった。」
「これ、ちゃんと沸騰直前なのかぁ?」
『大丈夫だと思うよ、熱斗くん。』
「そっか。……おー、溶ける溶ける。」
『ブランデーを入れるならば、ここでだそうです。』
「いらないんじゃないか?熱斗には必要ないだろう。」
「炎山は好きなのかよ、酒入り。」
「嫌いじゃない。」
「ふーん。でも好きっていうわけじゃないなら入れないでおこうぜ。俺苦手だし。」
「やっぱりか。」



『次は冷やしながらゆっくりかき回して扱いやすい固さにする、だって。』
「ふんふん。って扱いやすい固さってどのくらいだ?」
「バットに乗せて冷やすみたいだから、形を維持できるくらいじゃないか?」
「そっか。」
『そろそろいいんじゃない?』
「かもな。よしじゃあ取り分けるか。」
「ほら、スプーンだ。」
「あ、サンキュ。」
「……おい、熱斗。もう少し、丁寧に、」
「ぐ、うまくスプーンから落とせないな。えいっ。」
『おまえのオペレーターは不器用なのか?』
『う、うーん。そんなことはないと思うけど…。』



「よし、そろそろ固まったかな?」
「いいんじゃないか?」
『そしたら、それを丸めてココアとかをまぶすんだって。』
「あ、俺秘密兵器を用意したんだぜ!」
「あまりいい予感はしないんだが。」
『なにを用意したんだ?』
『…さぁ?僕も教えてもらえなかったから。』
「じゃーん!」
「………カレー粉か?」
「そう。」
『……。』
『ね、熱斗くん、それは。』
「いや、それはないだろう。」
「え?なんでだよ。カレーの隠し味にチョコを使ったりするんだから、その逆だっておいしいって。」
「その案は却下だ。」
「えー。」
「他にはないのか?」
「粉砂糖とココア。」
「それだけ使おう。」
「なんでだよ。」
『僕もそうした方がいいと思うよ…。』
『当然だ。』
「ちぇ。」



【ちょこれいと革命】



「出来たー!」

 皿の上に乗った二色のボール。二つの山になったそれらは、合わせてざっと30個くらいはあるだろうか。作っているときにはあまり多くは感じなかったけど、盛ってみると意外とすごい量だ。

「結構いっぱい出来たな。」
「そうだな。」
「ライカにも分ける?」
「いや、二人で食べよう。」

 甘いものをたくさんは食べられない炎山を思って言ったのに、即一刀両断だった。ん?、と思って隣を伺い見れば少し不機嫌そうに眉を寄せた炎山がいた。その表情のわけに思い当たってしまって、意地悪に口の端が上がるのが自分でも分かった。

「なんだ、やきもちか?」
「……わかって言ってるだろう。」
「でも、そうだよな。せっかく一緒に作ったんだから二人で全部食べよ。」

 ひょい、と山のてっぺんから白いトリュフを口に放り込めば甘く溶けた。二人でこれを作ったのだと思えばおいしさは増す。初めての共同作業?とか思ってみたけど、普段一緒に戦ってるのとかも共同作業って言うんだろうか。どうなんだろう。
 炎山はじっとトリュフの山を見つめたまま動かない。あんなこと言っておいて、やっぱり全部食べるのはやっぱりきついのかな。まぁ、俺がいっぱい食べちゃえば炎山が苦痛に感じる量なんて残らないだろうな。

「チョコおいしいぜ?ほら。」

 炎山も、とココアの方を摘んで炎山の口元へ持っていってやる。炎山はちらりと目線だけでチョコを見てから、口へと迎入れるために少し口を開く。そこに軽く押し込むようにしてチョコを入れてやる。

「おいしいだろ?」
「ああ。…少し甘すぎる気もするが。」
「そう?俺はちょうどいいや。」

 さっき食べたチョコの余韻が名残惜しくてもう一個、と手を伸ばす。今度はココアの方だ。口へと放り込めばほわっととろけるチョコは本当においしい。なんでおいしいものって幸せになれるんだろう。

「んー、おいし。」

 もう一つぱくり。溶ける感覚が癖になりそう。と思いつつ、もう一個。この調子で食べてたら今日中にはなくなるかも、とか考えながらもう一つ。本気でやめられない。だってうまいし。

「よく食べるな。」
「おいしいし。ほら、炎山も食えよ。」
「食べさせてくれないのか?」
「は?」
「ほら、さっきは食べさせてくれただろう?」
「……自分で食え。」

 馬鹿げたことを言う炎山の目が、なんだか、見ていられなくて目を反らした。こう、恋人同士の触れ合い、をするときの目をしてる。あんまりいきなりするものだから、どうしたらいいかよく分からないし、心臓がうるさい。そりゃあ、そういう意味で二人でチョコを作ったわけだから、そういう雰囲気になったっておかしくはないのかもしれない。けれど、まだまだそれに慣れることの出来ない俺は困るばかりだ。
 心の中だけでため息をついて、うまく消化できない雰囲気を誤魔化すためにチョコに手を伸ばした。そのまま食べようとした手を掴まれて、え、と思う間もないままに、気づいたら生暖かいものが触れていた。
 炎山、と悲鳴を上げるみたいな声で呼んでしまったが、炎山はまるで気にならないみたいで、ちらりと俺を楽しそうに見てきた。しかも口の中に含んだままの俺の指をぺろりとひと舐めされて、ぎゃっ、と今度こそ悲鳴が上がった。手を放させようと引っ張るのに全然出来ない。いっつも部屋の中で仕事してるくせに、とか悪態をつきながら手を引っ張ってもだめ。炎山は四苦八苦してる俺を見ながらやっぱり笑ったままだ。

「炎山、放せよ!」
「はいはい。」

 ちゃんと言ってしまえば、意外にもあっさり放してくれる。ただ、俺は恥ずかしいのと怒りとで赤くなってるだろうし、すごい取り乱したのに、炎山は余裕たっぷりでいるのが腹立たしい。でも今の俺にはそんな炎山を真っ赤にさせてあたふたさせる方法なんて知らないから、仕返しをすることも出来ない。
 次のバレンタインまでに炎山の弱いことを見つけてやろう。密かに決意しすると、少ない経験を元に赤い顔してあたふたしている炎山が想像できた。
 それに少し気分を良くして、涼しい顔をしている炎山ににっこり笑いながら、もう一つチョコを食べさせてやる。驚いた顔をしながらもチョコを食べる炎山に向かって、余裕でいられるのも今のうちだからな、と思いながら。
 
 
 
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